笠松 加葉(かさまつ かよ)

2004年 金沢美術工芸大学 美術工芸学部 工芸科彫金コース 卒業
2006年 同上       美術工芸研究科 修士課程 修了
2010~2011年 (公財)宗桂会運営 月浦工房 所属
2015年 卯辰山工芸工房 修了
2017年より 金沢市、宗桂会共同運営「加賀象嵌・彫金専門塾」講師
  金沢市工芸協会会員、加賀金工作家協会会員、石川県伝統産業青年会議会員
  伝統工芸日本金工展、石川の伝統工芸展、金沢市工芸展など多数入選。

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加賀象嵌の世界に入ったきっかけ

元々アクセサリーやカトラリーなどの金属製品が好きだったこともあり、大学の進路を決める際にデザイン系に進むか、実際に制作する工芸系に進むか悩んでいたところ、知人に進路の参考になればと加賀象嵌の現人間国宝・中川衛先生をご紹介頂きました。
中川先生のお話を伺う内に、悩みの霧が晴れ自分の進む道がまっすぐと見えたような気がし、加賀象嵌の道に進むことを決意致しました。

笠松さんにとって加賀象嵌の魅力

加賀象嵌には日本人らしい奥ゆかしさがあり、そこに魅力を感じています。
完成した作品は、パッと見はただ模様を描いているように見えますが、実は金属を彫りそこに別の金属を嵌め込むという途方もない工程を経ています。
使用している金属は日本固有の伝統金属です。海外では錬金術で金を生み出そうとする中、日本は金や銀などの高価な金属を銅と合わせ、落ち着いた色合いの金属を生み出しました。
技法も素材も一目見ただけではその労力や価値は分かりませんが、しかしながら他にはない存在感には、日本人独特の感性が詰め込まれており、見た目の派手さに囚われない日本人らしさがそこにはあります。

加賀象嵌とは(概略説明)(歴史と現状)

16世紀に加賀藩の前田家が京都より職人を招いた事で伝わった技法です。
加賀藩独自の進化を遂げ、現在では石川県により県の希少伝統工芸として認定されています。
金属を彫り、そこに別の金属を嵌め込む事で繊細な紋様を描いていきます。
平象嵌、鎧象嵌と呼ばれる技法をメインとし、色金と呼ばれる日本固有の伝統金属(銅合金)を多用することが、今日の加賀象嵌の特徴の一つとされています。

加賀象嵌の特徴

日本の地域伝統工芸で現存する金属の象嵌は京都府の京象嵌、熊本県の肥後象嵌、そして石川県(富山県)の加賀象嵌と三つあります。
京象嵌と肥後象嵌は胎に鉄を使用し、布目象嵌という技法により金銀で模様を描きますが、加賀象嵌は色金と呼ばれる日本固有の伝統金属を使用し、平象嵌という技法で模様を描きます。
一部産業化されている京象嵌や肥後象嵌とは違い、デザインから制作まで全ての工程を一人の作家が行う為、作り手により作品の風合いが大きく異なり、量産されないことにより保たれる芸術性の高さが魅力の一つとなっています。

笠松さんにとっての加賀象嵌

17歳の時に加賀象嵌の道に進むと決めて20年以上が経ちました。
何かの手段として加賀象嵌があるのではなく、自身が加賀象嵌を続けるためにはどうすべきかと考え続けた20年でした。
気付けば加賀象嵌は私の人生そのものであり、アイデンティティであると言っても過言ではないかと思います。

製作にあたって注意する事項など

工芸品は使用することで初めて価値が生まれると考えている為、作品単体で完成するのではなく、鑑賞者(使用者)の想いも込められるよう余白を持たせるように意識しています。
また、より鑑賞者(使用者)の気持ちが重なりやすいよう、全ての作品において小さな物語を創作しています。
その物語は聞かれない限り敢えて語ることはしませんが、物語のない作品よりも物語のある作品の方が鑑賞者はそれぞれの想いを心に描き、作品に魅力を感じることが多いように思います。
技術に関しましては、既成概念に囚われないことを何より大切にしています。一般的に加賀象嵌では禁忌とされている工程をどうすれば取り入れることができるか等、常に柔軟な発想をするよう心がけております。

製作上の困難性や訓練の方法

全ての工程が大切であり、常に緊張感を持っておりますが、絵画などと違いやり直しが効かない為、最初の計画が何よりも重要になります。加賀象嵌はその繊細さ故、非常に制約の多い技法でもあります。デザインをする際、仕上げまでの工程を全て考え計画する為、実際に制作に入ってからよりも制作に入るまでの方が時間を要することも珍しくありません。
訓練に関しましては、十種類以上の金属を使用致しますが、金属ごとに性質が異なる為、とにかく数をこなし経験を増やす以外、上達する術はないと思っております。まずは失敗を恐れずに手を動かし、失敗を重ねる中で技術やオリジナリティを習得いくのではないでしょうか。

笠松さんの加賀象嵌の特徴

日記のようにその時々心に留まった景色を作品に落とし込んでいる為、自分自身では
何が特徴かと問われると、非常に答えに難しい面があります。
背伸びをせず、その時の等身大の自分だからこそ作れる物を大切にしておりますので、
そういった想いが自然と作品の特徴に繋がれば嬉しく思います。

現状の課題と今後目指したい方向・事柄など

私が加賀象嵌の世界に足を踏み入れた時、若手の作家はほとんどおらず、比べる相手がいない状況でしたが、だんだんと後輩作家が増え、以前よりも自身の立ち位置を意識するようになって参りました。何もかもがむしゃらに全てを抱え込んで走り続けて参りましたが、最近は他者に任せられる事案と、自分にしか出来ない事柄をしっかりと見極め、より作品の完成度を上げられるよう精進していきたいと考えるようになって参りました。
作品の完成度を上げる事で、立場や発言に説得力が生まれます。多くを説明せずとも、作品がしっかりと語ってくれるようになることが一番の理想です。
「加賀象嵌だから欲しい」ではなく「欲しい作品が加賀象嵌だった」という流れが、一番自然に後世に加賀象嵌が残っていく流れだと思っています。
作り手自身が過ぎる程多くを語り、後世に残すために奔走し、一番大切な制作の時間が削られ、作品の質が落ちていく事程悲しいことはありません。後世に残そうという運動は、作り手以外の人間に任せることが一番自然だと思っております。
以前はそういった事をお願いできる人がおりませんでしたが、20年間走り続けてきた事により、力を貸してくださる方が増えて参りました。
もちろん作り手が何も話さなくて良いと言うわけではありません。作り手はしっかりと想いを込めて制作し、その想いをきちんと伝え、更により多くの方に伝える役割を担ってくださる方、そしてそれを販売してくださる方、何より購入し生活に取り入れてくださる方、それぞれが影響しあい、成長できるような社会になればと願っております。

ワークショップ開催、など販売も含めた展開

ワークショップには、体験していただく事で、より伝統工芸への認識を深めていただくと言う大切な意味があります。
畑で言えば、土壌を耕す行程です。以前までは若手の作家がほとんどいなかった為、ワークショップも販売も、全てを担わなければならない面がありましたが、現在は後輩作家も育って参りましたので、ワークショップなどは後輩にお任せし、自身は次の行程、種植えと水やり、すなわち作品一点一点の制作にしっかりと向き合い、密度を今まで以上に上げていくことに重きを置きたいと考えております。
ただ数を沢山販売すると言うよりは、より良いものをより良い形で販売する方法を模索中です。

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